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93 - 最後にして最初のアイドル(8月の課題図書)

  ほしみくん経由の読書会カツドウの8月の課題図書でした。こち

最後にして最初のアイドル (ハヤカワ文庫JA)

最後にして最初のアイドル (ハヤカワ文庫JA)

 

  6月はわたしを離さないで、7月は新選組血風録らしいんですけど、8月に入ってから読書会に気付いたので8月分から参加することにしました。

 

 さて、表題作である『最後にして最初のアイドル』は2016年ハヤカワSFコンテストで特別賞を受賞したラブライブ!の二次創作小説『最後にして最初の矢澤』を改題、修正したものである。ここらへんの経緯に関してはまあ自分で漁ってください。

 選評にも書かれているのでバカSFと呼んじゃうけど、バカSFであり、バカSFのくせに重厚な理論を繰り出してきて最後に宇宙の真理、すべての謎、生まれた意味、ふたりの出会いetc...が収束していくところにみんなしびれたと思う。僕もしびれた。僕が特にいいなぁと思ったのは「アイドル活動は過酷である」と言いながらどんどん白熱していく人類の虐殺のシーンで、ここは殺し屋イチの「聖人だ……」って言いながらマゾのヤクザと追いかけっこするシーンのような荘厳さと滑稽さ、それとツッコミどころが多すぎるともう受け入れるしかないという諦念があり、スルスルと読める文体と相まってゲラゲラ笑うしかなかった。基準となるモラルが半歩や一歩どころではなくズレているが全員おかしくなっているので正常にお話が進んでいくのがいいと思う。

 次にエヴォリューションがーるず。これはけものフレンズとガチャを題材にしつつ輪廻する魔法少女まどか☆マギカな作品で1作目同様に全員が狂ったまま進行する狂ってない世界なのが面白い。そのうえで繰り広げられる生命の進化とガチャと魂の物語。魂とは、進化とは、生命とは。そして人と人の縁がおりなす不思議。関係性の物語として見てもとても素晴らしいものだったと思う。

 最後に暗黒声優。文庫版出版にあたっての書下ろしで、タイトルからすると暗黒星雲を彷彿とさせる。この作品はエーテルがあり、声優の発声器官がエーテルを操作できる世界での物語で、今回もまた人道がないところ、女と女の旅であるところ、SFとしてしっかりとした部分が存在するが、エーテル操作のあたりでそれらをブチ壊しにしつつ基準となる科学知識はこちらの世界と同様のものが登場するので混乱する素晴らしい仕様だった。百合営業をしながら宇宙をかけめぐる声優が声優を妥当する姿は面白かったなぁ。生命のふたつの進化に関しては「へー」って感じで流すように読んでしまったが、宇宙鯨が銀河の中心を目指し、銀河の中心で繁殖した宇宙鯨がまた外宇宙を目指す壮大な話を最後にポロっと混ぜ込んでくるのが白眉。