元祖yajiri

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72 - 艦娘ゲーム(皆月蒼葉/びびび文庫)

艦娘ゲーム(皆月蒼葉/びびび文庫)」を読んだ。

三編の短編とそれらを貫く一編からなる連作短編集。

蕎麦さんが今までしてきた与太話がしっかりとした形を持って発行されたことにまず感動してしまった。当時は「こういうのいいよね……」「いい……」とはなったものの、雑談の中でのことだから細部は曖昧で、各自が勝手に想像するものだった。それが実力を持った人の力で像を結び、重みをもって表現されているのが素晴らしい。

ディティールアップの際に秀逸だなと特に思ったのは最上と日向の話で、行きは下道から湾岸線に入るのは大変に頷くところだった。どの話にしても細部の作り込みが素晴らしく、ともすればチグハグなこだわりになりそうなところを、日々の出来事は実感を伴った生活の匂い、また遊びに出かければ非日常の香りが匂い立っていた。

一番のお気に入りは鳳翔さんが主役のお話。空母の「母」たる側面へのクローズアップが秀逸。目的のために体を売るのを厭わないのいいよね……。

それとネタバレになるけど、艦娘症候群に罹患した子の周囲って漫画サトラレのような感じになるんだろうか? 日向のいる組合に対する一般職員の反応がそれっぽいような気がする。「あれが長官?」というのは多分最上の幻聴で、実際には辻褄が合うように幻覚や幻聴を見続けているんだろう。

そういう考えなので4本目のおかげで無限に不幸な目に合わせられるのもそうなんだけど、それが実際の不幸ではないかもしれないのが救われる。それが本当に救いなのかは難しいところだけど。まあ幸せそうな夕張がいたしいいじゃない。